有事に備えた資金の逃避先は?

日本の周辺、あるいは日本国内で有事が起きた際に資金をどこに逃避させるべきか。過去の事例をもとに解説します。

過去の有事の際の金融商品の値動き

有事が起きた際に、金融商品はどう動くのか。過去の事例をもとに解説します。

株価

2023年10月に発生したハマス等によるイスラエルの攻撃により、テルアビブ証券取引所の指数は約20日間で約15%下落しています。

また、2022年2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻では、ウクライナ証券取引所の株価指数は一時、直近の高値から翌月には60%下落しています。更に戦争が長期化したことで、2023年10月時点では2022年1月時点から約70%超、下落して推移しています(注:同期間に米国株価も約30%下落している)

有事の際は周辺国の株価も下落する場合があります。例えばハマスによる武力攻撃の直後、エジプトの株価は一時7%安まで下落しています。ウクライナの隣国、ポーランドの株価も侵攻から8ヶ月で40%下落しており、同期間に約30%下落した米国株価よりも下落幅が大きくなっています。

自国通貨

2023年10月のハマスによる武力攻撃後、イスラエルの通貨シェケルは対ドルで5%超下落しています。

ロシアによるウクライナ侵攻では、ウクライナの通貨フリヴニャは対ドルで20%程度下落した水準で推移しています。ロシアの通貨、ルーブルは侵攻直後に対ドルで一時50%近く下落する場面もありましたが、2023年10月時点では侵攻直前から20%下落した水準で推移しています。

資金の「避難先」として適したものは?

銀行預金(普通預金)のままでも消失するリスクは低い

ウクライナ戦争のケースでも、銀行システムは健全な状況が維持されており預金が「消失」するような事態が発生したとの報道はありません。1日の引き出し額を日本円で約39万円に制限したものの、銀行システムは可能な限り維持するよう中央銀行が決議案を可決しています。

日本の銀行も多重なシステムを導入しており、万が一全土が攻撃を受ける事態になったとしても預金が「消失」するリスクは低いと言えるでしょう。したがって、有事が起きたからといって直ちに全ての預金に対し何らかの対応を行う必要は無いと言えますが、一方で記事冒頭でも紹介したように株価や通貨の下落は見込まれます。

有事の「金」

有事の備えとしては金(ゴールド)が有名です。

ウクライナ戦争の発生直後から約2週間で米ドル建てで8%超上昇しその後は戦争勃発前の水準に下落する場面もみられたものの、自国通貨が約20%下落していることを考慮すると、資産の価値を保全するという点では有効と言えるでしょう。

購入方法としてはコインや地金などの現物のほか、金ETFを購入する方法もあります。金ETFは手数料も安価で、盗難のリスクも無いため手軽に購入できる方法として有効です。有事の際は銀行取引に制限が掛かるケースや、証券取引所の取引が一時停止する場合もあることを予め考慮する必要があります。

ビットコイン

「デジタルゴールド」と呼ばれています。タイミングによっては金と同様の値動きをすることもあり、近年は有事の際の資産保全の手段として注目されています。実際、ウクライナ戦争が勃発した直後は金と似た値動きをしており、また自国通貨が下落したことをふまえても価値保全という「通貨」としての機能はある程度有していると言えます。

取引所を通じて購入するのが一般的です。有事の際は銀行取引に制限が掛かる場合があるため、有事が起こる前に取引所に資金をある程度移しておく必要があると考えられます。金ETFとは異なり、取引停止になる事態は想定されない(取引所によっては停止する可能性もある)点がメリットと言えるでしょう。

「遠い地域」の株式

有事の当事国、及び周辺国の通貨や株価は下落するリスクが大きいと言えます。一方で戦闘が行われている地域と関係が薄い、地理的にも政治的にも離れた国の株価や通貨には直接的な影響が及びづらいでしょう。ETFや投資信託を通じてそのような地域に投資する金融商品を購入するというのも一つの選択肢になると思います。

高額商品

コストパフォーマンスは必ずしも優れないため推奨はしませんが、選択肢の一つとして紹介します。

ウクライナ侵攻によりロシアは各国から経済制裁を受けました。特に西側諸国からの輸入に頼っていた自動車は制裁により入手が困難になるとの見通しから、ウクライナ侵攻直後から中古車価格などが急上昇。資産価値を保全するという観点からも自動車を買い求めるロシア国民が相次いだとの現地からのレポートがあります。

ロシアのケースは経済制裁という特殊な要因が絡んでおり、日本周辺で有事が発生するケースとは前提条件が異なりますが、一つのヒントになるかもしれません。例えば全国各地で自動車工場が攻撃を受け、長期間再開が見込めない場合などは中古車の価値が上昇する可能性もあるでしょう。