台湾有事が発生した際に海外に避難することは可能?現実的な答えは・・

台湾有事の発生し、日本にも脅威が及んだ際に海外に避難することは可能なのか。想定される事態を検討します。

参考事例1 ロシアによるウクライナ侵攻

有事が発生した際の国外避難の実例として参考になるのが、2022年に発生したロシアによるウクライナ侵攻です。最大で800万人が一時、国外に避難したとされています。

ウクライナから国外に避難した人々の多くは、陸路でウクライナから脱出したと言われています。自動車(バス等含む)や鉄道により、ポーランドを始めとする隣国に脱出した人が多いようです。

2023年3月には岸田首相がキーウを訪問していますが、このときもポーランドから鉄道を利用してウクライナを訪れています。

結論 戦闘真っ只中の国外避難は「困難」

結論として、日本周辺で有事が起きた際に国外避難を行うのは困難です。

陸路が使えない日本

日本は四方を海に囲まれており、鉄道や自動車といった陸路による避難が不可能です。

では船舶や航空機を使った避難が可能かというと、戦闘が行われている状況下では安全な運行が難しいため、民間の航空機や船舶は運行を継続するのが難しいと考えるのが妥当でしょう。日本に対し武力攻撃を実行する勢力がいたとして、彼らが「民間機に攻撃を加えない」という保証がどこにあるでしょうか。

民間の航空機などへの攻撃は当然認められていませんが、過去に民間の航空機が被害を受けた事例もあるため戦闘が行われている地域で民間の航空機が飛行することは極めて難しいです。

大量輸送は確実に「不可能」

仮に船舶や航空機を使った避難が可能となったとしても、多くの人々を円滑に輸送することは不可能といえます。

ジャンボジェット機と呼ばれるボーイング747機でも一度に輸送できる旅客は最大600名程度、また民間の大型のカーフェリーでもやはり旅客は一度に600人程度しか輸送することが出来ません。日本で最も旅客数が多い羽田空港でも、一日平均7万人程度しか旅客がいません。7万人というと、首都圏のそれほど大きくはない私鉄駅の利用客数と同程度です。

台湾有事の際に攻撃を受けることが懸念されている沖縄県の人口は約150万人、また特に台湾から近い先島諸島には約10万人の人々が居住しています。更に、九州あるいは本州の港湾・空港周辺などが攻撃を受ける事態も想定されるため、避難を必要とする人の数を考えると少なくとも「国外避難」は現実的とはいえません。

パスポートが必要

それでも国外への避難を検討するにあたって、有効なパスポートは確保しておく必要があります。パスポートは身分証明書として国際的に通用するものであるため、避難先の国に受け入れてもらうために必要となる可能性が高く、また海外に避難する航空機や船舶に搭乗する際の必要条件となる可能性もあります。

避難するなら「戦闘が始まる前」

国外に避難することが可能だとすれば、それは戦闘が始まる前です。ロシアによるウクライナ侵攻が始まる直前にも、様々な「前兆現象」がありましたが、そうした前兆現象を敏感に捉えることが出来れば、国外に避難することも可能となる場合もあるでしょう。

現実的な「避難」は

現実的に可能な「避難」としては、本州や九州などにお住まいの方は人口密度が低い山間部への退避が考えられます。周辺に重要施設が無い場所を選ぶことで、攻撃を受けるリスクを軽減することが出来ます。第二次世界大戦中には学童疎開といって、都市部の子供たちが山間部の寺などに避難していましたが、同じ理屈です。

ロシアによるウクライナ侵攻では、ウクライナの人々が最大で1000万人が避難生活を余儀なくされたとされています(ウクライナの人口は4379万人:2021年) 内、国外に避難した人は420万人、国内で避難をした人は650万人(いずれも国際移住機関推計)とされており、国内での避難が主だったことが分かります。

戦闘地域から近い地域にお住まいの場合は、出来るだけ重要施設(基地、空港、港湾施設など)から離れた、鉄筋コンクリート造の堅固な建物の地下への避難が現実的ではないでしょうか。

いずれにせよ、戦闘が開始した状況下での海外への避難は現実的に不可能に近いといえます。